監督の選手起用に対して意見を言うことは、監督批判ともとられかねません。ほとんどの選手が、そうした行動はとらないでしょう。しかし、時にピッチに立つ選手の方が、試合の流れをより理解できることもあるのかもしれません。
なでしこジャパンが、ワールド杯ドイツ大会で優勝した要因の一つに、監督の度量を上げても良いのではと思いました。
アメリカとの決勝戦、アメリカが延長前半を1点リードで終えて後半が始まろうとしたとき、一人の選手が佐々木監督に自らの意見をぶつけました。それは、自分と他の選手のポジションを変えて欲しいというものでした。
自らの意見を提案したのは、川澄奈穂美でした。本大会で、準決勝のスウェーデン戦で2得点を上げ、シンデレラガールとして注目を集めた彼女でしたが、単なるシンデレラでなく自らの考えもしっかり持っていました。
右サイドのFWの位置にいた彼女は、右サイドハーフにいた丸山とポジションを入れ替えて欲しいと提案しました。運動量の多い自分が、アメリカのサイド攻撃を止めれば、攻めに転じることが出来るのではないかというものでした。
「サイドクロスを上げられて、失点してしまったというのもあるので、自分がサイドで丸山選手が前の方がいいんじゃないのかなというのを少し感じたので」
これに対して、佐々木監督はこう言っています。
「彼女もしっかりそういうことを考えてくれて、これだけ戦ってきたのに冷静だなと感じました。そうだな、それの方が良いかもしれない。(それじゃあ)変えてくれ」
「澤頼みと言うか、澤と言う存在は勿論大きいですけど、澤無しでもなんとか出来るように、自分たちがやっているんだから、状況が変わったら自分たちで対応するという要素の所では、凄く対応能力だ出来てきたという所がある」
度量の小さな監督であれば、この川澄の提案に対して、自身のプライドが頭をもたげ、「ふざけるな!」と怒りが前面に出るような場面ではなかったでしょうか。しかし、佐々木監督は、川澄の意見をすんなり受け入れて、丸山とポジションを変えさせました。
結果として、このことがなでしこジャパンに良い結果を生みました。
これまで、攻撃が上手く機能しなかったのが、二人のポジションが変わったことで守備が安定し、前線が活性化し始め何度もゴールに迫れるようになりました。明らかに、なでしこジャパンの動きがスムーズになり、前がかりになった澤も自らシュートを放つなど、攻めの形が見られるようになりました。
そして、ついに運命の時がやってきます。
延長後半の試合終了の時間が迫りくる中。
中盤で川澄が相手のパスをカットすると、そのボールをあやちゃんへパスしました。その後、ボールは、阪口⇒鮫島⇒阪口⇒あやちゃん⇒澤と繋いだところで、澤がゴール前に走り込んできた近賀を見つけ、相手GKと走り込んできた近賀との間にクロスボールを入れました。
このボールに、飛び出してきたGKソロより先に近賀が触れました。ボールはジャストミートしませんでしたが、それでもゴール目がけて飛んでいきました。しかし、このボールを、アメリカのDFがゴールマウス手前でピッチの外に蹴りだしました。
なでしこジャパンは、この一連のプレーでCKを得ました。このCKは、なでしこジャパンに奇跡を生みました。
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