延長後半残り3分。なでしこジャパンの敗色が濃厚となってきました。テレビを見ていただれもが、日本の負けを覚悟したのではないでしょうか。しかし、それでもなでしこジャパンのイレブンは誰一人諦めていませんでした。
川澄がアメリカのボールをカットすると、あやちゃんにボールが渡り、阪口⇒鮫島⇒阪口⇒あやちゃん⇒澤とボールは生き物のように動き出します。そして、澤が相手ゴール前に蹴り込んだクロスボールに、GKソロより先に触れた近賀の蹴ったボールは、アメリカゴールに向かって円弧を描いて飛んで行きました。あのまま誰も触れなければゴールに吸い込まれたのだろうか。微妙な位置に飛んだボールでしたが、相手DFランボンが懸命に蹴りだします。
このプレーで、日本はCKを得ました。蹴るのは、もちろんあやちゃんです。しかし、この時、アクシデントがありました。近賀のシュートを阻止しようとしたGKソロが味方DFと交錯し、ソロが足を強打し、その治療のために試合がストップしたのです。
このプレー中断の時、CKを待っていた澤の元へ、ワンバックがやって来て何やら言いました。この中断は時間稼ぎではなく治療のためだと言いにきたようです。もちろん、残り時間を考えたら、プレー中断により少しでも時間稼ぎをしたいという思いに駆られることは分かります。しかし、アメリカがそのようなことをするチームには見えませんでした。澤もワンバックに対して、了解と言う仕草を見せました。
CKのためにコーナーに行っていたあやちゃんが、澤のところへ戻ってきました。阪口も一緒に、何やら三人で話し合いが行われました。
あやちゃんが澤に伝えたのは、ボールを蹴り込む位置のことでした。高さでは無くスピードで勝負するには、ゴールポスト手前のエリアしかないと考えたのです。
あやちゃんの証言
「ニアでいけるんじゃないか、ニアに蹴るわ」
澤の証言
「宮間選手が『ニアに合わせる』と言ってきたので、『じゃあ、私一番に行くね』って」
澤は、あやちゃんがボールを蹴る前から一気にニア目がけて走り出しました。澤をケアしていたDFビューラーは一瞬遅れて走り出しました。
ボールは、寸分の違いもなくドンピシャで、澤の思った位置に飛んできました。澤は右足アウトサイドでボールを蹴り、軌道を変えました。軌道の変わったボールはワンバックの胸に当たって、GKソロの動きと反対側に飛んで行きゴールネットに突き刺さりました。残り時間3分で、なでしこジャパンは再び同点に追いついたのです。
この時のことを、澤は後にこう言っています。
「アウトサイドの上の方、小指、薬指のあたり。アメリカは背が高いのでヘディングでは勝てないにしても、ニアへの速くて低いボールに対しては私も多少の自信がありましたし。自分が触ることによって角度が変わってくれればいいなあと思っていました。実際、相手のワンバックに当たって入りましたから。キッカーのあやが良いボールを送ってくれたので、当てるだけでしたよ」
澤は、ゴールを決めて立ち上がると、あやちゃんの姿を探して一目散に駆けていきました。
「私が点を獲るのは大体、あやのセットプレーから。彼女は私をいつも意識してくれていて、W杯でも5ゴール中、3ゴールがあやのアシストでしょ。だから、アシストしたあやのところに一番最初に行くように体が勝手に動いてしまうんです(笑)」
あやちゃんはこう言っています。
「本当にみんなの気持ちと言うか、雰囲気もグランドの空気もありますし、そういう全てを含めて、たまたま自分が代表して蹴って、澤さんが絶妙に合わせてくれたというところで、本当にみんなの点だと思います」
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2017.04.28 10:45
2017.04.27 21:33