延長後半残り3分。まさか、ここで日本に追いつかれるとは思っていなかったアメリカ。アメリカを代表するワンバックがこう言っています。
「私には、時が止まったように感じられました。同点に追いつかれるなんてあり得ないと思ったからです。アメリカは、後5分で、ワールド杯で優勝できるところでした。本当に、胸が張り裂けそうになりました」
これに対して、同点に追いつきPK戦に持ち込んだ日本は、佐々木監督を中心に笑顔の輪が出来ていました。
阪口
「全然気負うことなく、ワールド杯決勝でPKを蹴ることなんて、これからないかもしれないから、雰囲気を楽しもうという感じだった」
海堀
「特に緊張することもなく、折角ゲームの流れで追いついてもらっていたんで、普通に頑張ろう、楽しもうと思いました」
澤は、ペナルティを蹴らず、後輩に託しました。
これに対し、川澄は澤についてこう言ってます。
「あんな大舞台で、ずーっとチームの中心でやってきてくれた選手なんで、『どうせですから絶対蹴った方がいいですよ』と言ったんですけど『絶対、やだやだ』と言っていました。」
澤
「皆を信じて、気持ちだけは皆に託しました。でも、どうしても勝ち取りたかったんで、気持ち的にですけど、サッカーの神様がついてくれていたら、勝利に導いてくれるんじゃないかと思ってお願いしました」
コイントスで、PKはアメリカが先攻となりました。1人目のボックスは、中央寄りのシュートを放ち左に跳んだ海堀の裏をかいたように見えましたが、海堀の右足が残っており弾かれました。
対する日本は、PKに絶対的な自信を持っているあやちゃんが蹴りました。蹴る前に、相手の動きを観察して一呼吸おくと、ソロは痺れを切らして右に飛びました。あやちゃんは、それをあざ笑うかのように、ソロの動きと反対方向の中央やや右寄りにボールを蹴りました。余裕でゴールが決まると、ガッツポーズが出ました。緊張している仲間を鼓舞するために、あえてポーズをとったように思いました。
続くロイドは枠を外しました。日本は、2人目の永里が止められてしまいました。しかし、この日の海堀は絶好調でした。3人目のヒースが狙った左側へのシュートを阻みました。
日本3人目は、阪口でした。思い切りゴロで左隅を狙うと、GKの指先に触れたもののゴールがネットを揺らしました。この時、ゴールに対する福ちゃんや矢野の驚きの表情が印象的です。
後攻の日本側は3人目が終わって、2-0とリード。アメリカ4人目のワンバックは成功しましたが、次を決めれば日本が勝利です。若干20歳の熊谷に、優勝の命運がかかったのです、
熊谷は、相手に狙いを読まれたくないと一度夜空を見上げました。そして、GKソロと目を合わすことなく、豪快に左上方ゴール隅目がけてボールを蹴りました。迷いなく放たれたボールは、ゴール右上のネットに突き刺さりました。
日本の女子サッカーが世界に挑戦してから30年、澤が日本代表に選ばれてから18年、なでしこジャパンは、ワールド杯初優勝を遂げました。
熊谷のシュートを見守るあやちゃんの少し笑顔を浮かべた表情と、緊張感に包まれた澤の表情が対照的です。そして、熊谷のゴールが決まった瞬間、澤を始め、なでしこジャパンの選手たちは一斉にGK海堀の元へ走り出しました。ただ一人、あやちゃんを除いて。
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